河回別神グッ仮面舞のストーリー

河回別神グッ仮面舞の一連の内容を順を追ってご紹介します。仮面舞は2017年10月現在、水、金、土、日曜日の2時から3時まで、私のいる総合案内所の向かいにある仮面舞伝授館(常設公演場)にて行われています。冬季には公演回数が減りますのでご注意ください。詳しくはお問い合わせいただきましたらご案内いたします。

 

1時間の公演の間に下のマダン(上演される演劇)の中からいくつかを公演します。ですので日によって内容が異なり、どのマダンをご覧になれるかはその時のお楽しみ、ということになります。

 

<降神>

別神グッを行うため花山(河回村の主山)の中腹にあるソンファンダン(城隍堂) (村社むらやしろ)にて村神を迎える儀式です。旧暦1月15日に山主、役者、祭官などが列を成し農楽(朝鮮半島に古くから伝わる伝統芸能。 農民・農村の音楽を意味する。 農民が豊作を祈願したり、豊作を祝ったり、時には仕事の疲れを癒すために朝鮮全土で発展してきた)を奏で城隍堂に到着すると、担ぎ運んだソンファンデ(城隍台)を祠に立てかけ山主が祠に入り呪文を唱えつつ降神します。この時、城隍台の鈴が鳴ると降神に成功したとし山主を筆頭に参加者全員が二度敬拝します(敬拝は生きている人には一度、霊前には二度します)。これにより城隍台は村神の霊魂の一部となります。下山に先立ち役者は仮面を着け、城隍台を筆頭に村神の化身である カクシ(閣氏)をムドン (舞童)の肩に乗せ農楽を奏でつつ村に戻ります。

 

 

<ムドン(舞童)マダン>

マダンとはマダン(広場)で上演される演劇を意味します。城隍台を先立たせ降神したカクシ(閣氏)はムドン(舞童)の肩に乗り、一行は村に戻ります。カクシ (閣氏)はソンファンシン(城隍神)(村神)の顕現なので、神の立場は土を踏んではいけないことになっています。村に着くと見物人たちが用意した衣服をソンファンデ(城隍台)にかけ、願い事をしたり役者の乞粒(穀物や金銭を乞うこと)に応じたりします。カクシ(閣氏)がムドン(舞童)の肩に乗り行う村への行進は村神を村にお迎えする行事であり、村の平安や豊作を祈願する意味があります。また、衣服を城隍台にかけたりカクシ(閣氏)の乞粒に応じたりするのは村神の神力により徳や福を授かろうとするものです。

 

 

<ジュジ(住持)(神獣)マダン>

オスとメスのジュジ(架空上の神獣)が麻のカマスをかぶり登場し向き合い、踊ったり闘ったりします。オスとメスの神獣が激しく舞うのは悪鬼を追い払いマダン(広場)を清める意味があります。闘いにおけるメスの勝利は多産と豊穣、豊年を祈願する意味があります。

 

 

<ペクチョン(白丁)マダン>

と刀を入れた袋を担いでペクチョン(屠殺を生業とする賤民)が登場すると、牛がのっそりと入場します。斧で牛をつぶしたペクチョンは牛の睾丸を取り出し、観衆に向かい滑稽なセリフで冷やかしの問答をし、観衆の笑いを誘います。牛をタネにして性的なニュアンスを含めたセリフを発することにより支配階級の権威意識を風刺する意を持ちます。

 

《マダン概要》

ペクチョン:お!牛がいるぞ。あの牛をつぶして今日は盛大に宴会を開こう。奴はでかいからつぶして食えば精が出るに違いない。

牛をつぶし、ふぐり(睾丸)を取り出し観衆に声をかけます。

ペクチョン:旦那方!牛のふぐりはいらんかね。とり立てだから生でも食べられるし焼き肉にしてもうまいぞ。若い妻を二人持つには精力が一番だからね。周りの目など気にせず早く買いなよ。自分の金で自分の精力をつけるのに何の気兼ねがあるものか。孔子も子供を作っただろう?子宝に恵まれるには精力が一番!

-ここで実際にお布施として観客が買うふりをして紙幣を役者に渡したりします-

ペクチョン:ああ、商売もさっぱりだな。このあたりで踊りでも踊って引き上げようとするか。

ペクチョンは突然の雷に驚き、あたふたと逃げ行きます。

 

 

<ハルミ(老婆)マダン>

小さなひさごを腰に付けた老婆が登場し、生涯不幸に暮らしてきた身の上を嘆きつつ機織り歌を物寂しく歌います。機織り歌の内容は、嫁いでたったの三日で寡婦となった心境や生きることへの哀嘆。機織り歌が終わると老婆がニシンをめぐって銅鑼の打ち手とやり取りします。「ばあさん、昨日おいらが市場で買ってきたニシンは全部食べたのかい?」「昨日の夕食にあんたが1匹、私が9匹、今朝あんたが1匹、私が9匹で一つるし全部食べたじゃないか!」このようなやり取りから男性中心社会に対する批判や苦衷、そして社会秩序に抵抗する被支配階級の意思を見て取れます。

 

《マダン概要》

ハルミ:チュナ チュナ オクタンチュナ (春や 春や 玉丹春や)!(オクタン チュンとは李朝末期の悲恋の小説の主人公)

ハルミ:チュナチュナ玉丹チュナ!城隍堂(村杜)の神霊樣!不幸なチュナがかわいそうだよ。嫁に行って三日目にそんなことってあるのかい!15歳にして寡婦になるとわかってりゃ嫁に行く女なんかいるわけないのに。

楽士:ばあさん、はたは全部織ったかい?

ハルミ:はたは全部織ったさ…

楽士:ばあさん、昨日おいらが市場に行って買ってきたニシンは全部食べたのかい?

ハルミ:昨日の夕方あんたが1匹私が9匹、今朝あんたが1匹私が9匹、一つるし全部食べたじゃないか!

楽士:ばあさん、そんなに食い意地が張ってるから歯が抜けてしまうんだ。ひさごを持った物乞いになっちゃうぞ。

ハルミ:なんだって!それが私の運命なんだから仕方ないよ。

-ハルミはひさごを持って踊りながら見物客に物乞いをする。

 

 

<ジュン(破戒僧)マダン>

芸者役のプネが急に尿意をもよおし小用をすませます。それを通りすがりの僧が見て欲情をこらえきれずプネを誘い共に踊り遊ぶ樣子を人に見られてしまいます。人間の本能的な葛藤を風刺しており、当時の僧侶の墮落ぶりをかいま見ることができます。

-芸者であるプネが舞を舞いつつ急に尿意をおぼえ周囲をうかがいながら小用をすませます。この光景を一人の僧が覗き見ます。

僧:南無阿弥陀仏。あれは女のようだが。

-人の気配にプネは慌てて立ち上がります。僧は小便をしたその土を手につかんで臭いを臭ぎます。

僧:南無阿弥陀仏。今日はここで女と一緖に踊りでも踊ろう。

-僧はプネに近づき肩をたたいて呼び掛けます。

僧:おい、娘さん、私を無視するな。踊りでも踊って遊ぼうじゃないか。

僧:娘さん、そんな冷たいことは言わずに踊ろうじゃないか。

-やがてプネは僧の言葉に従い踊り始める。そこにヤンバン(両班)の使用人であるチョレンイがやがってきて眺めます。

チョレンイ:ははは。この世には奇妙なこともあるもんだな。

-チョレンイが笑うのを見た二人は驚き、僧がプネをおぶって逃げます。

チョレンイ : 坊さんがプネと踊りを踊るこの世の中、ならば俺も友を呼んでここで踊りでも踊るとするか。

-チョレンイが踊りだします。そしてソンビ(学者)の使用人であるイメを呼びます。

イメ : 何の用だ、チョレンイ。

チョレンイ : イメや、イメや、早くこっちに来い。

チョレンイ : イメや、ちょっと俺の話を聞いてくれ。さっきここで坊さんとプネが二人で踊りを踊ってた。

イメ : なに、坊さんがプネと踊りを踊っていたって?そりゃおかしな話だ。

チョレンイ : イメや、坊さんがプネと踊りを踊るご時世だ。俺らもここで踊りでも踊ろうじゃないか。

イメ : そりゃいいとも。

-チョレンイとイメは踊りを踊ります。

 

 

<ヤンバン(両班)、ソンビ(学者)マダン>

ヤンバンとソンビがプネを我がものにしようと学識と身分を競い合います。後に二人は仲を取り直しプネと共に踊ります。その後現れた白丁から牛のふぐりを買おうとまた争い始めたところ、ハルミにたしなめられます。

しばらくしてビョルチェ(下級官吏:仮面は現在失われておりイメが代用として登場します)が「年貢を納めよ!」と叫ぶと一同恐れをなし四方へ散り散りになります。

チョレンイ : みんな早く集まっておいでよ。

-ヤンバン、ソンビ、プネが踊りながら登場。

チョレンイ : ご挨拶されてはいかがです?

ヤンバン : 君とは初めて会うな。挨拶しようではないか。

-ヤンバンとソンビは互いに挨拶を交わします。チョレンイは頭を地につけて挨拶するヤンバンの頭をまたぎます。

ソンビ : この使用人は無礼な奴だ。

ヤンバン : こいつはいくら礼儀を教えてもどうしようもない奴なのだ。

ソンビ : おい、プネや。私の肩を揉んでくれ。

チョレンイ : ヤンバン樣、私もお肩を揉みましょうか?

ヤンバン : それは嬉しい。そうしてくれ。

-チョレンイはふざけてヤンバンの肩を叩きます。

ヤンバン : なんという奴だ この使用人は。

チョレンイ : ヤンバン樣、ちょっと俺の話を聽いてくださいな。さっき俺がここを通りかかった時、坊さんとプネが二人で踊りを踊ってたんですよ。 俺が近づくと、僧はプネをおぶって逃げて行きやがった。

ヤンバン : ああ、なんと嘆かわしい世の中になったことだ。おい、プネや、私の肩を揉んでくれ。-プネはヤンバンの肩を揉む。

ヤンバン : プネや、私と踊りでも踊らんかね。

-ヤンバンはプネと踊りを踊る。しばらくするとプネはソンビのもとへ寄り添い、いつの間にかソンビと二人で踊る。ヤンバンとソンビは踊りながらプネを奪い合う。

ソンビ : おい、ヤンバン。よくも私の前でこんな恥さらしなことをしてくれるな。何ということだ。君は私より身分が高いとでも言うのかね。

ソンビ : 君のほうが身分が高いとでも言うのか。

ヤンバン : もちろんだ。おい、ソンビ。私はこう見えても四大夫(士丈夫=豪族)の子孫だぞ。

ソンビ : ははは、四大夫だと。俺は八大夫の子孫だぞ。

ヤンバン : 八大夫とは何のことだ。聞いたこともない。

ソンビ : 八大夫とは四大夫の倍も偉いということだ。

ヤンバン : おい、ソンビ。俺の祖父は門下侍中(高麗時代の長官のこと)だったのたぞ。

ソンビ : そんなことで威張るな。俺の祖父は門下侍大という偉い官吏だったのだ。

ヤンバン : 門下侍大とは何だ。そんな官吏があるものか。

ソンビ : 門下より門上のほうが高く侍中より侍大のほうがより偉いということさ。

ヤンバン : おい、ソンビ。身分だけではなく学識が大切だ。俺は四書三経をすべて読んでおるぞ。ソンビ : それくらいで大きな顔をするんじゃないよ。俺は八書六経だぞ。

ヤンバン : ばかげたことを。八書とは一体何の書物を言い、六経とは何の経典を言うんだ。

チョレンイ : おいらも知っている六経!それも知らんのかい?

八萬大藏経(パルマンデジャンギョン)、坊主のデタラメ経(バラギョン)、眼鏡(アンギョン)、薬局の桔梗(キルギョン)、娘の月経(ウォルギョン)、使用人の年給(セギョン)でしょう……。(「経:ギョン」と同音の言葉を並べたもの)

ソンビ : そうだ。おまえの使用人でさえ知っているぞ。

-ヤンバンは問答を続けても無駄だと思い和解しようとします。

ヤンバン : おい、ソンビ。もうこの辺で終りにしよう。あそこにいるプネを呼んでもう一度踊ろうじゃないか。

-ヤンバン、ソンビ、プネ、チョレンイの四人は音楽に乗り踊る。またペクチョン(百丁)も登場し商売を始めようとします。やがてハルミがやってきてヤンバンとソンビをからかいます。

 

百丁 : 皆さん牛のふぐりはいらんかね。

ヤンバン : なんだお前は。皆で楽しく踊っているのに。さっさと帰れ。

百丁 : この牛のふぐりは精力がつきますよ。

ソンビ : なに、精がつくのかね。なら私が買うぞ。

ヤンバン : ソンビよ。これは最初ペクチョン(百丁)が俺に薦めたものだ。これは私の物だ。

-二人は牛のふぐりを奪い合います。

百丁 : おれのふぐりでけんかは止めてくださいな。

-その瞬間、牛のふぐりが地面に落ちます。

ハルミ : みっともない人達だね。たかが牛のふぐりごときで争うなんてね。私は六十年も生きてきたけど、こんなことで争う奴らは初めて見たよ。

-ヤンバン、ソンビ、プネ、チョレンイ、ペクチョン、ハルミは一緖に踊りだします。しばらくしてビョルチェ(下級官吏)がやって来て年貢を払えと呼びます。この声と同時に一同はあっという間に退散します。

 

 

 

<洞祭>

洞祭とは小正月(陰暦1月15日)の朝、城隍堂(村社:むらやしろ)に登り村を守る洞神(村神)に祭祀を捧げるものです。別神グッの最初に行われる「降神」同様、山主、祭官や役者たちが祭祀に参加します。降神は別神グッを行うために村神を迎える行為であり、洞祭は別神グッが行われる間楽しんだ村神をお送りする送神の儀式です。

祭儀は城隍台を城隍堂に立たせた後、供え物を捧げ杯に酒を注ぎます。そして村の安寧と豊作を祈願する内容の祝詞(のりと)を捧げます。最後に村神に祈りを捧げる意味の紙を燃やし空中に飛ばす儀式をします。祭祀が終わったら役者たちが農楽を奏でつつ仮面舞を踊ります。日没時に城隍台につけた鈴を外し、役者達が仮面を脱ぎ帰宅すると別神グッは終了します。この中で両班、閣氏、学者は帰らず婚礼と新房の場を演じます。

 

 

<婚礼マダン>

新婦は城隍神の顕神である「カクシ(閣氏)」、新郎は「ソンビ(学者)」です。村の入り口にある畑で婚礼が進められます。伝説では虚青年が仮面を制作したとされており、青年は彼を恋い慕った金氏の娘に仮面制作の場を覗かれ、製作中に見られてはいけないという村神の戒めを破ったところから仮面の仕上がりを見ることなく他界してしまいます。虚青年の死に苦しんだ娘もまた、その後を追ったとされています。それ以降、自ら死を選択した娘の魂を慰めるため城隍堂を建てその娘を村神として祀っています。この婚礼マダンは虚青年と娘の叶わぬ恋を成就する意味で行われています。

 

 

 

<新房マダン>

婚礼を終え新婚の部屋で初夜の儀式が行われます。新郎が新婦の韓服を脱がせ横にする行為を演じます。婚礼マダンと新房マダンは結婚を叶えることなく他界した城隍神を婚姻させる一種の神性婚です。男性と女性の結合は子孫の繁栄を、畑で儀式を執り行うのは豊作を祈願することに由来しています。

河回別神グッ仮面舞のストーリー」への1件のフィードバック

  1. 最初の投稿でマダンごとの動画の住所を貼り付けましたが、今見てみたらリンクが切れていて本文から削除しました。だいぶ温めていた内容でしたのでその間に動画が削除されたようです。不備をお詫び申し上げます。

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